有機栽培は「ものづくり」-能登山修先生の講演から学んだ土づくりと観察の大切さ

今日は南平交流農園の活動日でした。でも、今日は農園での作業ではなく、有機無農薬栽培研究家・能登山修先生をお招きした講演会での勉強会でした。テーマは「有機無農薬でおいしい野菜をつくる」。
約2時間にわたり、有機栽培や土づくり、野菜が育つ仕組みについてのお話を伺い、その後も活発な質疑応答が続く、とても贅沢な時間でした。土づくりの基本から、植物が生きる仕組み、地球環境とのつながりまで、幅広い内容でしたが、その中でも特に心に残ったことを記録しておきたいと思います。
「ものづくり」と「世直し」
講演の中で最も印象的だった言葉の一つが、「ものづくり」と「世直し」でした。先生は、この二つを生涯かけて続けていきたいと考え、有機栽培の魅力を多くの人へ伝える活動を続けているそうです。有機栽培のテクニックについてのお話を聞くのかと想像していたので、思いがけず先生の想いに触れることができ、とても心が動きました。
「おいしい」という感覚
先生が農に関わるようになった原点は、とてもシンプルで、「おいしいものを食べたい。」という気持ちから、有機栽培の研究が始まったそうです。一方で、活動を続ける中で、「おいしい」という感覚は人それぞれでもあることを実感されたそうです。
先生がおっしゃった、
「おいしいものを食べている人は、まずいものもわかる。でも、まずいものしか食べていない人には、本当においしいものはわからない。」
という言葉には、思わず「なるほど」と頷いてしまいました。そして、お孫さんには、
「いろいろなものを食べてもいい。でも、じいじの野菜も時々食べてね。」
と伝えているそうです。本当においしい野菜を時々でも食べていれば、その記憶は身体に栄養や酵素という形で残るだけでなく脳にも残る。健康な身体が育ち、その身体だからこそ、本当においしいものを「おいしい」と感じられる。「たまにでも食べてね」という姿勢から学ぶことも多く、また、味覚は知識ではなく、経験によって育まれるものなのだと改めて感じました。
土づくりの主役は土壌微生物
講演を通して何よりも感じられたことが、土づくりの重要性です。植物は肥料そのものを食べているわけではなく、土の中に暮らす土壌微生物が有機物を分解し、その働きによって植物が必要な栄養を受け取っているのだという構造を改めて実感することで、野菜を育てているのは肥料だけではなく、土の中に存在する無数の微生物の働きによるものなのだということを再確認することができました。
土の表面からは見えない世界ですが、無数の微生物の働きや命の積み重ねが、豊かな土をつくり、複雑な構造から結果としておいしい野菜ができあがる。農園の中に小さな自然をつくりだし、その生き物の循環を生かして植物を育てる有機栽培では、焦って結果を求めるのではなく、有機物の積み重ねを大切に、時間をかけて土そのものを育てていくことが重要なのだと学びました。
植物は何億年も生き抜いてきた
当たり前のようで、先生の言葉からハッとしたのは、植物は動くことができないのだということ。それでも何億年という長い時間、自ら水を得て、栄養をつくり、病気や害虫から身を守って生き延びている。植物の香りや味わいも、その生きる仕組みの中から生まれたものであり、その原理原則を知ることで、水やりの方法や肥料に対する考え方も変わってくるのだということ。「こうすれば育つ」というテクニックではなく、「なぜそうなるのか」を理解することの大切さや面白さに触れられた時間になりました。まだまだ農業や農についての学びを深めなければと、その道のりの遠さに途方に暮れることもありましたが、意外にも大切なのは小学校で習った理科なのかもしれないと思いました。
植物にとっての土は、人間にとっての腸
もう一つ印象に残ったのは「植物にとっての土は、人間にとっての腸のようなもの。」という例えです。私たちの身体が腸内細菌によっって支えられているのと同じように、植物も土壌微生物によって栄養を受け取りながら生長しています。「腸活」という言葉が広く知られるようになりましたが、畑にも同じように、多様な微生物が暮らし、その豊かな環境が植物を支えているのだというお話は、栽培方法を選択するうえで、大切にしたいポイントだと考えました。
農業は地球環境ともつながっている
講演では、プラネタリーバウンダリー(地球の限界)についての紹介もありました。化学肥料の大量使用による窒素循環への影響や、生物多様性の損失など、農業は地球環境と深く結びついています。日本の有機農業の現状や世界との比較についても、具体的なデータを交えながら紹介されました。野菜を育てることは、土を育てることでもあり、未来の地球の環境を選ぶことでもあるのではないかと改めて考えさせられました。
一株を一分間、観察してみる
今回の講演で、私自身が最も心に残った言葉があります。
「一株を一分間観察してみてください。」
一分間というと短いように思えますが、実際に植物だけを見つめ続けると、とても長く感じます。葉の色。葉の向き。虫食いの跡。茎の太さ。土の乾き具合。風の当たり方。
農園では、つい作業を進めることばかり考えてしまったり、全体をざくっと把握してしまいますが、なによりもまず植物ひとつひとつをよく見ること。観察することから、塩梅や加減が体感的にわかるようになったりするのだと、明日から実践してみようと思いました。
土を育てること
先生は、有機栽培は「生産」ではなく「ものづくり」であり、技を磨くように、焦らず、じっくりと楽しみながら続けてほしい、とお話されていました。
日野市へ移り住み、五十嵐先生から学びながら、自宅の庭づくりに取り組んできましたが、観察すればするほど、ひとつひとつに丁寧に向き合おうとすればするほど、あっという間に時間がすぎ、焦ることも少なく張りませんでした。でも、今日のお話を聞いて、自然には自然の時間があり、しっかりと観察し、必要な時間をかけて土を育てながら、手を動かすことが大切だと感じました。表面的な野菜を育てる技術だけを追いかけるのではなく、自然の仕組みを理解し、急いで結果を求めるのではなく、土壌微生物が働く環境を整え、植物をよく観察し、時間を味方につけながら、おいしい野菜を育て、人の健康を育み、未来の豊かな環境へとつなげていくことを心の片隅に置きながら、これからも学びを深めたいと感じました。
